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私とバックカントリー:KIKI
ベテランな仲間をガイドに、ゲレンデを離れ、裏山を滑るように気負いなく始めたバックカントリー。街でばかり会っている友達を誘って、雪山へ行ってみようか。
12月も半ばになると、雪の便りが各地から届いてきて、雪を求めてどこかへ出かけたいと、気持ちとからだがうずうずしてくる。この冬、どんな雪山へ行きたいだろうかと想像を巡らせ、同時に、これまでの様々な経験に思いを馳せる。
わたしはスキーやスノーボードだけでなく、スノーシューやアイゼンを履いてピッケルを手に雪山登山もする。(子どもが生まれてから4年近く、そんな機会もめっきり減っているのだけれど。)滑ることでいえば、主にテレマークスキーを履いている。テレマークスキーをはじめた頃は、スキーはそれなりに滑れるにもかかわらず、踵が浮くその奇妙な道具に翻弄され、なだらかな斜面でさえ滑るのがやっとだった。ひざががくがくと震えて、その姿は生まれたての子鹿そのものだ。
最初のうちの特訓場所は、長野の妙高高原だった。妙高は、ゲレンデや山の斜度がそこまで厳しくないこともあり、バックカントリーの聖地ともいわれている。妙高高原のなかでも関温泉という小さなゲレンデと宿を拠点にしていたガイドがいて、彼のもとには毎シーズン、テレマークを履いた物好きたちが集まった。正月になると、年末から年始にかけて入れ替わりでいろいろな人が出入りをしていた。家族で来る人もいればカップル、ひとりで来る人もいた。わたしもはじめたての頃はひとりで車を運転して、関温泉で年越ししていた。
基本的に自由行動で、好き勝手に皆滑っているのだけれど、ガイドたちが天候をみて、「明日は山に入ろう」と計画するときがある。ある程度、技術があり装備も持っている仲間たちを誘って(そのときは金銭のやりとりがあり、ガイドと客という関係になる)バックカントリーに入っていった。1~2時間ほどのショートトリップなのだけれど、慣れ親しんだ裏山で遊ぶ感覚で、初期の経験としては気負いなくバックカントリーを楽しめる、いいきっかけだった。
彼らとは、前もって計画をして準備をして、大きなツアーに出るときもあった。妙高高原の妙高山や、富山の立山などだ。妙高山のツアーは、春に小屋開きしたばかりの高谷池ヒュッテに滞在するのが定番で、寝袋、そして自炊のための食料やお酒などの嗜好品を背負っていった。昼は小屋を拠点に周辺の山を滑って、夜は小屋でそれぞれ食事を作って皆で食べる。合宿みたいで楽しい時間だった。
今では、関温泉の様相も変わり、わたしたちも歳を重ねて、以前のように集うことはなくなったのだけれど、当時、関温泉に出入りをしていた人たちとは、滑ることに限らず日常でも、どこかで繋がりを持ちつづけているのがうれしい。その縁は、仕事や暮らす場所は全然違うのだけれど、バックカントリーやテレマークスキーという、おなじ趣味を目的に集まった仲間たちだからだろう。
いろいろ思い返していたら、この近年は、子どもが小さいのでゲレンデスキーばかりだったけれど、そろそろ山へ行きたい!(バックカントリースキーをしたい!)という気持ちが強く湧いてきた。仲間とも街で会うばかりだったけれど、一緒に雪山に行かないかと、声をかけてみようか。久しぶりに入る雪山は、やっぱり妙高がいいだろうか、ガイドは誰にお願いしようか。こうやって考える時間から、もうすでに楽しい時間ははじまっているのだった。
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豪快にスキーしたような感じで仕事がしたい。松田翔太インタビュー(後編)
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世界自然遺産、屋久島の奥深く、縄文杉や苔の覆う森、黒潮の海から高くそびえる山と、日本中の植物が凝縮された自然と一つになる感動を案内する