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禅宗の僧侶、伊藤東凌が考える「瞑想」とは何か

聞き手: Max Mackee (Kammui 創立者)

2023.2.28


伊藤東凌は、京都の建仁寺塔頭の小さな寺、両足院に住む禅僧であり、寺院の美しい庭で日々瞑想を行っている。


Kammui マックス (以下、マックス): まずはじめに、伊藤さんの経歴や両足院の歴史について教えてください。

伊藤東稜(以下、伊藤): はい。 両足院は1357年に創建され、京都にある臨済宗の総本山である建仁寺の塔頭寺院の一つで小寺院です。

私は、この両足院で生まれ育ちました。地元の小学校に通っていたので、同級生とよくここの庭で遊んだものです。

マックス: 両足院での幼い頃の思い出は?

伊藤: 一番最初の記憶は、ここで鬼ごっこをしたことです。両親は僧侶でしたが、私に多くの自由を与えてくれました。私はこの寺で生まれ育ちましたが、当初はあまり寺の活動に参加しなかったんです。比較的、一般家庭と同じような生活をしていたように思います。実は子供の頃の夢は学校の先生を目指していました。今でもとても尊敬している職業です。

マックス: では、どうして僧侶の道に入られたのですか?

伊藤: 幼い頃に両足院で遊んでいる時に、先輩のお坊さんたちがここで一生懸命働いている姿を見ていたんです。だから、子供の頃からお坊さんに対する憧れはありました。そして、大学を卒業するときに、「やっぱりお坊さんになりたい」と思うようになりました。それから3年間、修験道の道場で暮らしました。3年後、2005年に緑谷院に戻りました。だから、もう17、18年ここにいることになります。


マックス: 両足院には素晴らしい日本庭園がありますね。その事を少しお話を聞かせてください。

伊藤: 両足院の庭園は300平方メートルほどの広さがあります。日本庭園は、植物と石を人工的に配置したものです。手付かずの自然とは異なりますが、魅力に溢れています。

マックス: 日本庭園は非常に特殊でミニマリズム的な美学を持っていると思います。実際、どのように作っているのですか?

伊藤: そうですね、日本庭園には独特のミニマリズムがあります。日本庭園の特徴のひとつは、将来の変化や成長のために余白を多く残していることだと思います。ご存知のように、自然をコントロールすることはできませんから、日本庭園がどのように発展していくかを完全にコントロールすることはできません。

私の中では、「こういう風に枝が伸びるんだろうな」という期待や希望を持ちます。そういう意味では、自然の成長は私の期待通りにはなりません。そう考えると、長い目で見たときに、コントロールできない要素があることが、自然の美しさなのかもしれませんね。


マックス: 自然はコントロールできないということが、実はその美しさの重要な部分であり、私たちがそこから学ぶべきことでもあります。それでは、座禅についてお聞かせください。

伊藤: まず、坐禅の重要な点は、最終的には人間も自然の一部であるという感性を取り戻すことだと思います。町に住んでいると、どうしても自然から離れ、自分一人に集中してしまいがちです。でも、どこにいても、少しずつ周りの環境とつながっていく必要があると思うんです。そして最終的には、私たちを取り囲むすべての身体とつながっていくのです。

マックス: 周りの意識的な存在に対してということですか?

伊藤: そうです。そうすると、自分の身体は単なる独立した存在ではなく、周りのさまざまなものとつながっていることが観察できるようになると思います。周りの人たちや自分自身と、環境は切っても切り離せないということを体感できたとき、自然も人間も別々のものではなく、自然というひとつのものの一部であるという感覚を取り戻せるのではないでしょうか。

マックス: ここでの瞑想のやり方には何か特徴があるのですか?

伊藤: 私の坐禅指導のスタイルは、伝統的なスタイルとは少し違います。私は「流れ」(フロー)をとても大切にしています。というのも、私は長い間、坐禅の説明をして、長時間坐ってもらうようにしていました。でも、そうすると難しく考えすぎて、体が緊張しがちになると思うんです。

感覚を重視することが大切です。いきなり感覚を開花させたり、つなげたりするのは難しく、徐々にやっていくことが必要だと思います。そういう意味では、まず外側に意識を向けてから、身体に意識を向けるように指導しています。そして、一緒に体を動かしながら感覚に意識を向けていきます。

これが坐禅のポイントです。坐禅をすることで、普段意識している範囲に意識を向けることができます。こっちをもっと意識しようとか、音をもっと聞こうとか、普段照らされていない心の部分があることに気づけます。仏教の教えからすると、この「全体性」の感覚を取り戻すことが非常に重要なのです。


マックス: 伊藤さんは瞑想とテクノロジーを組み合わせたさまざまなプロジェクトに携わっているようですね。その経緯について少し教えてください。

伊藤: 先ほど、仏教は人間の全体性を見出すためのものだとお伝えしました。3年前と比較しても、人々のライフスタイルは急速に変化していると思います。それに伴い、表現方法や使う技術や道具も短期間でものすごく変わってきています。

そういう意味では、仏教哲学は古来より決して変わらない要素だと思います。しかしながら、その哲学の捉え方や体験する方法は、時代とともに変化していくはずです。私はさまざまなプロジェクトに参加していますが、普遍的な仏教哲学を持ちながら、新しい表現を生み出すことに挑戦し続けたいと思っています。

マックス: アートと仏教の要素を融合させていますよね?

伊藤: アートと仏教の融合にも力を入れています。元々、お寺は最先端のアートを発信する場所でした。時代の中で最新のアートピースが展示されていました。しかし、現代では時とともにそれは薄れてきています。しかし、アーティストやその作品にとって、お寺は大切な場所であることに変わりはないと考えています。

アーティストには、アーティストにしか持つことのできない視点がたくさんあります。また、作家は一人一人違うということも実感します。そのため、自分が見ていた範囲が本当に狭かったことに気づかされることが多々あります。視野を広げるという意味でも、今後も多くのアーティストと活動をしていきたいと思っています。


マックス: 伊藤さんはどういうものからインスピレーションを受けていますか?

伊藤: まず、私が住んでいる町、京都です。このお寺に座っていると、聞こえてくるのです。四季の音や風の音は、私にとって大きなインスピレーションの源です。

心が一カ所に留まっていると思ったら、鴨川沿いを散歩してみる。そうするだけで、視点が変わります。そうすると、人生の流れが変わることがよくあります。また、京都は海外の方が多く訪れる街なので、ありがたいですね。だから、いろいろな人と腰を据えて話をすることができ、とても刺激を受けています。

マックス: ここに瞑想に来る人たちに、何か伝えたいことはあるのでしょうか?

伊藤: 現代はさまざまな問題に直面し、みんなの悩みも多様化していると思います。瞑想から学べることは、「自分の問題は自分で解決できる」ということを再認識することです。

瞑想をしていると、自分の「軸」というか、本当にやりたいことが強くなってくるんです。また、悩んでいることはすべて自分が作り出したものだと冷静に気づけるようにらなります。何に気づくかというと、問題は結局、自分自身が引き起こしているのだということです。瞑想をすることで、人は自分を信頼して必要な変化を遂げることができるようになると思います。
人を信じるということも、とても大切なことだと思います。そのためには、まず自分を信じることが大切です。一人一人が自分を信頼し、そして人を信頼できる世の中になることを願っています。


Profile

Kammui Guide

伊藤東凌

1980年生まれ。臨済宗建仁寺派両足院副住職、株式会社InTrip代表取締役僧侶。建仁寺派専門道場にて修行後、15年にわたり両足院にて坐禅指導を担当。アートを中心に領域の壁を超え、現代と伝統を繋ぐ試みを続けている。アメリカFacebook本社での禅セミナーの開催やフランス、ドイツ、デンマークでの禅指導など、インターナショナルな活動も。2020年4月グローバルメディテーションコミュニティ「雲是」、7月には禅を暮らしに取り入れるアプリ「InTrip」をリリース。海外企業の「Well being Mentor」や国内企業のエグゼクティブコーチングを複数担当する。ホテルの空間デザイン、アパレルブランド、モビリティなどの監修も多数。著書「月曜瞑想〜頭と心がどんどん軽くなる 週始めの新習慣〜
Instagram: @toryo.ito

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