Mind

子どもと一緒に、どこへ行こう。KIKI

Text & photos by KIKI

2022.09.05


自然と触れ合うために「子どもが一緒だからこそ楽しめる場所」はないかと探してみた。低山や森の遊歩道や海に近い湘南の裏山、自分にとって物足りないだろうと避けてきた場所も視点を変えて場所を見る楽しみ。

スキー、スノーボード、トレイルランニング・・・自然と触れ合えるアウトドアアクティビティは全般的に好きだ。なかでも登山が好きなわたしは、出産してから、いつも頭を悩ませている。長女が3歳7ヶ月、次女が0歳11ヶ月、そして4歳の柴犬・椿も家族の一員だ。

この家族4人で登山に行くのは至難の技。子どもの成長は著しいので、その時々で状況が変わり、行ける場所、歩ける距離、できることが毎度変わってくるので判断が本当に難しい。できたら椿も一緒に行きたい、なんて思っていると、本当にどこへ行ったらいいのか迷ってしまう。

とはいえ、これまで夫や山の仲間と出かけていたときのようには自由に行き先を選べないけれど、そうではなくて「子どもが一緒だからこそ楽しめる場所」はないかと、視点を変えて場所を見る楽しみができた。これまでは、自分にとって物足りないだろうと避けてきた標高の低い山でもいいし、いっそ山ではなくて森の遊歩道でもいい。週末ごとに訪れている湘南の山(海からも近い裏山のような存在)でも、自然と触れ合うという面では十分に楽しめる。簡単に握ったおむすびを持って、気持ちのいい場所で食べるだけでも、娘たちは大喜びをしてくれる。

次女が生まれる前のこと。今もあまり変わらないけれど、長女とは小さいうちから、山へ森へ海へ湖へと、あちこちへ連れて行っていた。「疲れた」「もう嫌だ」と泣くこともあったけれど、基本的には自分の足で歩くことが好きなようで、近い年齢の子どもたちと比べてもベビーカーを卒業するのも早かった。登山では夫の背負う子に乗りはするけれど、すぐに「降りたい~」「歩きたい!」といって、ゆっくりではあるけれど、ぐんぐんと自分の足で登って行く姿を微笑ましく眺めていた。

2年前、長女が1歳7ヶ月のときに行った、神奈川丹沢の大山を登ったときのこと。メンバーは、わたしと夫と柴犬の椿、そしてアウトドアのエキスパートでもある友人(男性)とその娘。このときは人通りの多いメインの登山道ではなく、川沿いのキャンプ場近くの登山口から歩いたのだが、長女がその年齢(1歳7ヶ月)にしては、とにかくよく歩いた! 親バカではあるかもしれないけれど、今思い出しても褒め称えたくなった。

このときも、しばしば夫やわたしの背負う子に乗って、時折、気持ちいい揺れにまかせて寝たりもしていた。けれど、一緒に歩いた友人の娘(小学校1年生のお姉さん)に手を繋いでもらったりして、急な傾斜があったり、階段があったりするトレイルで、しかも小雨で滑りやすかったにもかかわらず、自分の足で半分近くの道のりを頑張って歩いていた。

友人の言うところでは、彼の娘も、いつもよりずっと頑張って歩いていたそうだ。もしかしたら“お姉さん"としての見栄もあったのかもしれない。どの山を登るかだけではなく、誰と一緒に行くかが子どものモチベーションを左右するのかもしれないと思ったりした。思い返してみると、わたしたち親とだけよりも、友だちや祖父母が一緒だったとき、仲間内のツアーで山で山菜採りをしたときなど、いつもよりどこか張り切っていた娘がいた。

わかっていたつもりだったけど、同じアウトドアアクティビティでも、誰と過ごすかで大きく環境が変わるのだと、あらためて実感した。そしてそれは子どもばかりでない、わたしたち大人も同じことなのだと思う。

子どもと一緒に、どこへ行こうか。そして、誰を誘おうか。考えることが増えて、さらに頭を悩ませそうだけれど、やっぱり山の中で楽しい時間を過ごしたい。そして、娘たちが「子ども」といえる年齢のうちは、親としてなるべく選択肢の多い環境を用意できたらなと思う。彼女たちが大人になって、覚えていなくたっていい、忘れてしまってもいい。わたし自身、両親にいろいろな土地に連れて行ってもらい、海で、山で遊べたことがおぼろげながらに記憶にあり、だからこそ常に自然に触れ合うことに惹かれている今の自分があるのだと思っているのだから。


Profile

KIKI

モデル。東京都出身。1978年生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒。雑誌をはじめ広告、テレビ出演、映画などで活躍。エッセイなどの執筆も手掛け、旅や登山をテーマにしたフォトエッセイ『美しい山を旅して』(平凡社)など多数の著書がある。芸術祭への参加や自身の写真展で作品を発表する活動を続けている。現在は、『ライカスタイルマガジン』『小説幻冬』などで連載中。
インスタグラム: @campagne_premiere


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